著者:ロアルド・ダール
編者:金原 瑞人
定価 1,200円+税 136ページ
ジャンル[英語読み物]
発売日 2017年6月25日
紹介
賭けごと、妄想、そして狂気……。
奇才ダールの妙味をつめ込んだ代表作四編。
・金原瑞人の詳しい語注で辞書なしに読める。
・原文をすべて収録
・多読用に最適
【収録作品】
・南からきた男(Man from the South)
ホテルでバカンスを楽しむ主人公は、プールサイドで出会った南方訛りの小柄な男が、
士官候補生の若者に持ちかけた奇妙な賭けの立会人をつとめることになる。
若者が勝てば男の車を、男が勝てば若者の「小指」を相手に差し出すという
正気とは思えない勝負の行方は……?
・ラム肉の使い方(Lamb to the Slaughter)
満ち足りた日常を過ごすメアリ・マロー二にある日突然降りかかった悲劇。
この「裏切り」に対し、従順な主婦が起こした完全犯罪の一部始終。
・お願い(The Wish)
幼い子供の想像力は、些細な日常の景色さえ恐ろしい冒険の舞台に変える。
編者お気に入りの一編。
・味(Taste)
料理好きの集まるパーティで、当主と美食家の客が、邸宅と令嬢を賭けて
ワインの銘柄当てゲームを行う。
じわじわと真相へ迫っていく美食家の推理に、焦る当主の家族は……
目次
まえがき(金原瑞人)
Man from the South 南からきた男
Lamb to the Slaughter ラム肉の使い方
The Wish お願い
Taste 味
あとがき(金原瑞人)
著者プロフィール
ロアルド・ダール Roald Dahl
イギリス・ウェールズの首都カーディフ生まれの小説家(1916-1990)。
第二次大戦ではイギリス空軍のエース・パイロットとなり、その経験をもとに小説を書きはじめる。
「奇妙な味」と評される独特の余韻を持つ短編小説を中心に、児童文学も数多く残す。
ミュージカルや映画の脚本家としても活躍。
代表作に、短編集『飛行士たちの話』(1946)、『あなたに似た人』(1953)、二度の映画化で知られる長編『チャーリーとチョコレート工場』(1946)など。
金原 瑞人 (かねはら・みずひと) (編)
現在、法政大学教授、翻訳家。ヤングアダルト小説はじめ海外文学の紹介、翻訳で著名。著書『翻訳のさじかげん』(ポプラ社)ほか。訳書『豚の死なない日』(ロバート・ニュートン・ペック、白水社)『青空のむこう』(アレックス・シアラー、求龍堂)『国のない男』(カート・ヴォネガット、NHK出版)『月と六ペンス』(サマセット・モーム、新潮文庫)ほか多数。
まえがき
この英語の注釈シリーズもこれで7冊目。
今回は、イギリスの作家ロアルド・ダール(1916年~1990年)の短編を4つ取り上げてみた。ダールは、20世紀イギリスを代表する人気作家で、今でも多くの作品が読み継がれている。
このシリーズ、フランツ・カフカやアルベール・カミュの英訳、サマセット・モームの短編、アーネスト・ヘミングウェイの中編などを取り上げてきたのだが、それらとくらべると、ダールの文章は段違いに読みやすい。最初に取り上げたThe Boxのブルース・コウヴィルについで平易な文章だと思う。なので、注も少ない。
20世紀前半、イギリスで人気を博し、大衆小説作家と呼ばれたモームは、文章が読みやすく、当時の作家が使うような難解な言葉を避けていたといわれている。第1次世界大戦に出征した兵士が彼にあてて、辞書を引くことなくすらすらと読めたという手紙を書いたというのは有名なエピソードだ。ところが、いま読むと、とても難しい。現在ではあまり使われていない言葉が多く、また現在ではあまり使われていない言い回しも多いせいだろう。それを考えると、もしかしたら、50年後にはダールの文体は読みづらくなっているのかもしれない。が、まだまだ、じつにreadableだ。それも、読者にこびて平易な表現を使っているのではなく、十分に自分を主張しながら、それが読者にとって読みやすいという、ここが素晴らしいところだと思う。
ダールの魅力については、またあとがきで触れるとしよう。
ここに取り上げた4編は、すべて『あなたに似た人(Someone like You)』に収録されている。そこから好きなものを選んだつもりだったのだが、なぜか、4編中2編が「賭け」の話だった。Man from the SouthとTasteのふたつだ。ギャンブルやゲームがらみの小説は、プーシキンの「スペードの女王」、ドストエフスキーの『賭博者』、チェーホフの「かけ」、モームの「サナトリウム」、ヘミングウェイの「五万ドル」「色の問題」などなど、あげればきりがない。そういえば、『ちくま文学の森10 賭けと人生』という本も出ている。文学と人生と賭博は切っても切れない関係にあるらしい。
残り2編のうちのひとつがLamb to the Slaughter。主人公の女性の心理がとてもおもしろい。最後のオチも最高だ。
最後の1編、The Wish。これは絨毯を、危険の潜む冒険地図に見立てた男の子の、せいぜい5分ほどの物語なのだが、ダールのうまさ、ここにありといっていい。最初の、かさぶたをはがす場面から、読者はいきなり子どもの世界に引きずりこまれてしまう。そして絨毯が、まっ赤に燃える石炭が広がり、恐ろしい毒蛇のはびこる危険地帯に変わったとき、読者はいっしょに冒険に出ることになる。ここに収録された4編のうち、どれかひとつ選べといわれたら、迷わず、これを選ぶ。
ともあれ、まずは、ダールのミステリを代表する短編4つ、楽しんでみてほしい。