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Seitosha Publishing

2014年9月のエントリー 一覧

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著者:琉球新報「日米廻り舞台」取材班
ISBN:978-4-86228-075-6 C0031
定価 1,400円+税 201ページ
ジャンル[政治・社会]
発売日:2014年 9月26日
 


紹介
鳩山首相(当時)はなぜ県外移設案を撤回したのか。
官僚の妨害等、そこに至る舞台裏の経緯とは。
米海兵隊の県外・国外移転は果たして抑止力の低下になるのか。
普天間の県外移設を検討することは、ほんとうに「日米同盟の危機」につながるのか。
県外・海外移設を可能と考えるアメリカの専門家・元高官たちと、辺野古に固執する日本政府──。
全国紙が伝えなかった問題の深層を総力取材でさぐり大反響を呼んだ「琉球新報」連載の書籍化。

連載は今年の「平和・協同ジャーナリスト基金賞」大賞を受賞!

「本書には、足を引っ張ったり、引っ張る側にいたりした人の名前が実名で出てくる。民主党議員=前原、長島、(略)、外務省=藪中次官、斎木現次官、(略)、防衛省=高見沢防衛政策局長、黒江次長ら、有識者=岡本行夫。
これらの人を相手に、鳩山首相は孤軍奮闘し、力尽きた。日本の政治史の中で類まれなドラマが展開されていたのだ。」
(孫崎 享・東アジア共同体研究所所長、琉球新報2014年11月16日)

「普天間飛行場の固定化か、辺野古新基地か──。
おきなわの米軍基地について、県民に二者択一を迫る図式が往々にしてある。だが、この地方紙による集中連載は、
それを根底から覆す現実を浮き彫りにしたのではないか。日米安全保障に深く関わる米国側の元高官や専門家たちの言説を
体系立てて、説得力がある。」
(佐田尾信作・中国新聞論説副主幹、中国新聞2014年11月23日)

 


目次
プロローグ
1. 官僚の壁
2.米国の深層
3.揺らぐ「承認」
4.「県外」阻むもの
エピローグ
〔付〕関連記事


著者プロフィール

[琉球新報「日米廻り舞台」取材班]
内間健友(うちま・けんゆう)
2003年4月琉球新報社入社。編集局運動部、中部支社報道部、社会部、整理部、政治部を経て事業局教育スポーツ事業部。

島袋良太(しまぶくろ・りょうた)
2007年4月琉球新報社入社。編集局写真部、社会部、経済部、中部支社報道部を経て13年4月からワシントン特派員。


まえがき

 何が伝えられ、何が伝えられていないか。

 沖縄と言えば何を思い描くだろうか。青い海と青い空、白い砂浜。名護市辺野古と大浦湾はまさに、絵に描いたようなそんな自然が残るところだ。透き通る波の向こうにサンゴがほの見える。沖に向かえば海水が濃紺と青のグラデーションを描く。船を浮かべれば、たとえようもないその美しさを実感することができる。
 沖縄本島北部、東海岸のこの海は、沖縄でもとりわけ生物多様性が豊かで、県は「自然環境の厳正な保護を図る区域」であるランク1と評価している。人魚伝説のモデルとされ、環境省作成の「レッドリスト」で絶滅の危険が最も高い「絶滅危惧1A類」に指定されるジュゴンも棲む。ここの砂浜は同じく絶滅危惧種のアカウミガメ、アオウミガメが産卵することでも有名だ。世界で他に報告のない大規模なアオサンゴ群集もある。
 その海で日本政府は今、新しい米軍基地を造るため広大な埋め立てをしようとしている。沖縄本島中部にある米軍普天間飛行場の代替基地という名目だが、滑走路を2本持ち、強襲揚陸艦も接岸できる大規模な基地になるというから、軍事機能は大幅に強化される。
 沖縄県民は強く反発している。世論調査では県民の8割が反対だ。政府は、仲井真弘多知事から埋め立て承認を得たことを錦の御旗にしているが、2010年の沖縄県知事選でその仲井真氏は「普天間の県外移設」を選挙公約に掲げていた。13年末になって突如として公約を翻したわけだから、強権的な埋め立てに民主主義的正当性はない。
 本書は、その米軍普天間飛行場の移設問題をめぐる日米間の交渉の舞台裏を描いたものである。そう聞けば、「ああ、またか」とうんざりするかもしれない。だが、手に取って読んでもらえれば、過去に聞いた話と随分違う内容であることが分かるだろう。「普天間」の移設をめぐる日米交渉の実態は、実は世間に流通するイメージと大きく異なるのである。
 政府にとって都合のいい情報ばかりが意図的に流されているのではないか。メディアの側が政府によってコントロールされ、政府が流してほしい情報の流布に一役買ってしまっているのではないのか。そんな疑問がわいてくるのである。
 2009年に民主党政権が発足し、鳩山由紀夫首相(当時)が普天間飛行場の沖縄県外移設を模索したころ、日本のメディアには「米国はそれを許さない」とする論調があふれかえった。全国紙が1面トップの大見出しで「米国は怒っている」と報じたほどである。
 その中で印象的だったのは、日本の藤崎一郎駐米大使が米国務省に呼びつけられ、沖縄県名護市辺野古に移転する現行計画の履行を求められたとする報道だ。クリスマス直前の大雪の中、一国の大使が傘を差してとぼとぼと国務省に入る姿は、いかにも情けなく、米国の「怒りのほど」を表現するにあまりある映像だった。
 この映像を見た瞬間、報道の現場を知る者なら直感的に分かることがある。大使が入る前にカメラが国務省の前でスタンバイしていない限り、決して撮れない映像ということだ。駐米日本大使館の広報ないしリークがあったのは確実だろう。駐米大使館が「米国の怒り」を日本のメディアに報道させたがっていたのは明らかだ。自国の大使が他国に叱られるところを積極的に見せたがる外務省とは、いったいどういう役所なのだろう。
 日米合意の見直しは外務、防衛両省にとって大変な労力を要する作業である。外務官僚らが現行計画の変更に抵抗するのは察しがつく。その抵抗の手段として、この映像を報道させたのではないか。メディアもまた政府側の意図にあまりにも無批判ではないか。
 そうした疑念を裏付ける出来事は多い。米民主党のバーニー・フランクと野党ロン・ポールの両下院議員は10年7月、「沖縄に海兵隊がいる必要はない」との論文を発表した。大統領選に挑戦したほどの大物野党議員と与党の重鎮が連名で有力サイト「ハフィントン・ポスト」に寄せた論文が軽視できないのは明らかだ。翌11年11月には元米国防次官補のジョセフ・ナイ氏が米紙ニューヨーク・タイムズに載せた評論で、「沖縄県内に海兵隊を移設する計画が、沖縄の人々に受け入れられる余地はほとんどない。海兵隊は豪州に移すのが賢明な選択だ」と述べた。日米関係を取材・研究する者で知らない人はいない知日派の重鎮だ。だが全国メディアでこの二つの論文を報じたところはほとんどなかった。
 そうした情報空間にもどかしい思いをしているさなか、その裏側をこじ開ける機会がめぐってきた。鳩山由紀夫元首相を古くから知るジャーナリストの高野孟氏から「鳩山さんの首相時代を検証してみないか。鳩山さんが協力すると言っている」と持ち掛けられたのだ。本書の元になった琉球新報の連載「日米廻り舞台」の構想はそれがきっかけとなった。本書を読めば日本の政治家や官僚がどのように立ち振る舞ったのか、米側がどれほど柔軟だったかが分かるはずだ。日本の外交・防衛の在り方を考える一助になれば幸いである。