ナチと民族原理主義
あの惨劇はドイツ人の良心的行動からだった
多くのドイツ国民は、ユダヤ人排撃を黙認する道徳体系を信じた。その意識形成はいかにしてなされたのか。
従来言われたような、単なるナチの恐怖政治や宣伝のためではない。ヒトラーがユダヤ人について沈黙していた時期、民族の血統を信仰する民族原理主義に基づいて、異質の隣人を悪とする「崇高な」人種理論を、当時の学者や官僚など知的エリートたちがドイツ国民の間にひろめていった。そして殺人者たちは、ハンナ・アーレントの言うような単なる「歯車」ではなかった。
本書はその信仰形成のプロセスを、ぼう大な史料を駆使して解き明かすナチ研究の最前線。
民族原理主義は今日なお健在であるが、隣人愛を大罪とする「我われ」だけの共同体意識の惨劇を明るみに出す画期的労作。
目次
- プロローグ 民族の血統を信仰する
- 民族原理主義へ
- フォルクに寄せる無限の信頼
- 学問ふうの反ユダヤ主義
- ひそかに進む日常生活の変容
- フォルクという血の大河
- 新しい教科書の登場
- 官僚たちの迫害手続き
- 大量虐殺を用意する学者たち
- 「隣人愛」という大罪
- 排除を受入れた国民
著作者について
クローディア・クーンズ
デューク大学 歴史学教授。専門分野は、人種主義、ジェノサイド、ジェンダー。著書“More Masculin Men.More Feminine Women.:Gender and Race in Nazi Popular Culture.” 『父の国の母たち』他
1987年度全米図書賞ファイナリスト他、多数の賞を受賞している。
滝川義人(たきがわ・よしと)
ユダヤ、中東研究者。メムリ(中東報道研究機関)日本代表。著書『ユダヤ解読のキーワード』他、訳書、ヴィストリヒ編『ナチス時代ドイツ人名事典』他